
横谷英彦さんは「道の駅はなぞの」の運営責任者に就任した当初、屋台蔵にある大きな「屋台」が不気味で怖かったという。準備のために屋台蔵に毎朝入るのが憂鬱であったが、そのうちに慣れていった。
埼玉県熊谷市から山梨県までを結ぶ国道140号線沿いの、埼玉県深谷市小前田にある「道の駅はなぞの」には、御神体のように山車(だし)が3台、広々とした屋台蔵に収められている。広々とした屋台蔵と言っても、その空間に3台の山車がみっちりと収まっているので、余白はほとんどない。普段、山車は展示用として置かれており、道の駅のなかのガラス窓から見ることができる。あまりに大きく、暗がりにあるせいもあって、見える姿は部分的である。深谷では山車を「屋台」と呼んでいる。 屋台は1997年に有形民俗文化財に指定されている。毎年十月の第二土曜日と日曜日には、屋台蔵から出されて、国道140号線で屋台囃子とともに曳きまわされる。全体をみることができるのは、この「小前田屋台まつり」の時だけである。
いずれの屋台も、初めから小前田地区にあったわけではなく、上町、本町、中町からそれぞれ集められた。諸説あるかと思われるが、本町と中町の屋台は、どちらも秩父の大工が手掛けており彫刻師は不詳。上町の屋台は小前田の大工が手掛け、三つのうちでも最も大きく、彫刻は弥勒寺音八(みろくじおとはち)およびその門弟の諸貫万五郎(もろぬきまんごろう)のものとされている。その正面鬼板の彫刻はヤマタノオロチと対峙するスサノオノミコトの凄まじい姿である。
この「屋台」を間近で見る機会があったが、見上げようとしてもまだ上に屋台が続いているくらいに、途方もなく大きい。高さも奥行きも五メートル以上あり、これでは「見ている」というより「見られている」という感覚に近い。天井の暗がりの奥まったところでは、ヤマタノオロチの彫刻が息づいているように見える。「怖い」という言葉だけでは足りない恐ろしさ、厳粛さを感じた。
屋台を所蔵する「道の駅はなぞの」の過去はどのようなものであったか。ふかや物産観光株式会社の横谷英彦さん、そして内田融さんに取材を申し込んだ。
1998年に「道の駅はなぞの」は道の駅として登録された。休憩できて、地場のものを買うことができるだけではなく、屋台3台を収納する屋台蔵を設け、文化的財産の保護も役割として担った。横谷さんは「リニューアル前の道の駅は、よく見かけるような直売所のようでした」と語る。
現在の「道の駅はなぞの」は、深谷の産品だけでなく国道140号線のある地域の食べ物や酒などを集積し販売、情報発信を行っている。2017年にリニューアルを行い(リニューアルはリロカがプロデュースした)、以降も国道140号線の利用者の要望に応え続けている。また敷地内には、バンブックがプロデュース及び店舗運営を行うFARMY CAFE Curry standもある。バンブックのリロカ事業とは深い縁があった。

2017年のリニューアル前とその後について
――2017年、バンブックのリロカ事業部がプロデュースして「道の駅はなぞの」をリニューアル、2027年に10周年の節目を迎える。リニューアルする前はどのような道の駅でしたか。
横谷英彦さん(以下、横谷)「この道の駅は屋台の展示から始まっているんですよ。だから屋台を見てもらったお客様をメインに考えていたんで、あまり商品を置いてなかったんです。お土産を売ると言っても、あくまで屋台を見に来ているお客さんに、小さなお土産スペースを設けただけで、そこでお土産を少し買ってもらうような道の駅でした。2017年にリニューアルして物販売り場を広げた結果、秩父に行くときや、帰ってくるときにお客様がお土産を買うために立ち寄っていただけるような、そういった道の駅に変わりました。物販の売上自体もかなりあがりました。」
――リニューアル後、来訪されるお客様の変化はどのようなものでしたか。
内田融さん(以下、内田)「この道の駅を目的にいらっしゃる方々が増えました。以前は、話があったように短期滞在というか、トイレと駐車場で休憩して帰られる方が多い施設でした。リニューアルをしてからは、ここから秩父に行く、あるいは市内に行くという方が増えてきたていうところです。リニューアル前は、大きな問題ではないですけれども、飲食店とかが無かったんです。下の階のお土産と、他に惣菜やお弁当なんかはあったんですけれども……。」
横谷「2階で以前やっていた食堂が閉店して、ただの休憩スペースになっていました。『道の駅はなぞの』に立ち寄って何かを食べるというのは難しいことでしたが、リニューアルしてパン屋のオハナさんが2階に入って、そのあとにFARMY CAFE Curry standに入っていただいて、ある程度、食べる事に関しては、ここで済ませるというお客さんの意識ができあがり、休憩処としての機能が充実しました。」
――渋沢栄一出生の地としてなど、文化的な面で注目されているが、情報発信で変化はありますか。
横谷「当然、秩父に関しては、観光スポットへのアクセスなどに関する問い合わせが多いです。あとは、渋沢栄一にスポットあてられていますので、渋沢栄一関連施設はどこですか、といった問い合わせもあります。あとは3年くらい前にプレミアムアウトレットがオープンして、アウトレットに関する問い合わせもあって、結構いろんな問い合わせが増えてきた印象です。」
内田「いままでは観光のパンフレットをみて案内する事に重点を置いていたんですけれども、深谷市自体が渋沢栄一の生誕の地ということで、様々なお客様が以前より増えました。当時は深谷市内を巡る人よりも、秩父方面に観光に行く方の数が圧倒的でした。」
――リニューアルに向けた当時の思いは。 内田「リニューアルの時に大事にした事は、いままで通過地点に過ぎなかった道の駅を、旅の目的のひとつにすることでした。食事もできて、お土産も充実している、そして地域の方にもここに集まっていただけるようにしたいと考えていました。地域に何があって、特産品や美味しい食べ物があって、そういった事を様々な形で情報発信できる施設になるように考えてリニューアルしています。」

国道140号線沿いのセレクトショップとして
――道の駅は1993年にスタートしましたが、「道の駅はなぞの」ができたのは1998年。比較的、初期の頃の道の駅です。
横谷「おっしゃるとおり最初に道の駅ができた5年後に『道の駅はなぞの』ができたので、リニューアル前は老朽化が進んでいました。ちなみに『道の駅おかべ』は『道の駅はなぞの』の1年前にできています。『道の駅おかべ』と『道の駅はなぞの』は古いほうです。言い換えれば、歴史があるほうですね。」
内田「道の駅ができる当初は、屋台をここで管理する役割を明確にしていました。いまでも明治時代の屋台が3台、屋台蔵にあります。それを展示して地域の情報発信をするという意図です。『道の駅はなぞの』は、そうした歴史のある屋台を保存するために、そして観光の案内をするためにできた側面があると思います。」
――屋台はどのようなもの?
横谷「屋台は3台あります。そもそも、中町、上町、下町と3つの町が持っているものです。今は毎年1回、10月の第2土日に屋台を出して、曳いて町内をまわります。それが『小前田屋台まつり』です。みんなで曳いてまいりますので、見る者をあっと思わせる。壮大というか雄大というか。」
内田「曳きまわしは凄いですよね。それに、屋台自体が明治時代のものですから、文化財の価値がある。有形民俗文化財に指定されておりますので、その点でも見ものです。」
――これまで通り文化的な情報発信をしつつ、リニューアル後では地域のものの発信を強化したということでしょうか。
横谷「実はリニューアル前も、やはりお客様の要望が多くて徐々に売り場を広げていました。それなりの品揃えになったのですが、それでも物足りない部分がありました。リニューアルで品揃えを充実させましたら、お客様に喜んで頂いたようなカタチです。」
内田「リニューアルをしたときに、色々テーマを決めて店づくりをしてまいりました。今までどちらかというと秩父方面を主体にしたお土産が結構多かったんです。当初は秩父へ向かう通過地点としての色が濃かったので、深谷を打ち出し難い部分があった。そこへ、地元の深谷セレクトといって、深谷の良いもの、深谷ねぎだったり、それを使ったお土産だったり、ネギのドレッシングだったり、そうしたアイテムが格段に増えた。それらで『深谷セレクト』というコーナーをつくりました。それと、『ルート140号』というコーナーもつくりました。国道140号線がありますが、熊谷から秩父、山梨まで抜けていますけど、この国道沿いのいいものも集めている。例えばお酒ですと、この深谷市には酒蔵が3蔵あるんですが、そうした深谷市の地酒、それから秩父方面のワイン・ウイスキー、熊谷のお酒など、国道140号線沿いの、おいしいお酒を一手に揃えています。」
横谷「お客さんには当然、深谷の産品に対するご要望もありますし、その他には国道140号線沿いの地の産品も揃えて欲しいという要望もあるんです。基本的には深谷の産品を置くのですが、それに加えて秩父、熊谷などの産品もしっかり品揃えしています。リニューアルでは、深谷産の品揃えが強化されました。」
――道の駅には、いわゆる「セレクトショップ」のような役割があるのですね。 内田「そうですね。」
花園ICの整備と深谷の魅力
――花園ICが整備される前と、された後では、どのような変化がありましたか。
横谷「整備される前は畑だったんです。家畜の宿舎があったり。本当に普通の田舎の風景だったんですが、いざアウトレットができると、景色も様子も変わりました。いままではインターから降りるお客さんは、秩父方面に行く方が殆どだったんですが、いまはインターチェンジからアウトレットを目指している方も多い。マグネット的な効果ができていると思います。」
内田「花園インターチェンジは利用者が多い印象です。どこへでも行きやすい、ちょうどいいところにあるインターチェンジですからね。インターチェンジができたことによって深谷市の道路事情は発展を遂げました。観光バスもかなり多いんです。」
横谷「多い時だと1日だと10台以上はバスが停まります。そういうときは、お客さんの数がすごいです。」
――リニューアル後の苦労などは。
横谷「お土産を扱っている店としては、お客さんの来店が増えたので、そういういった意味ではリニューアルして良かったなと思います。飲食の分部では、お客さんの更なる要望があるので、こたえられるようにしたいと思っています。」
内田「あとは駐車場が手狭になっています。どうしても土日になると混雑が続きます。」
横谷「駐車場は比較的広いはずなのですが、土日になると足りない状況です。もっと集客するのであれば、駐車場をどうするのかという問題も頭の痛いところでございます。あとはトイレがかなり古かったんですが、2025年11月から改修工事が入ることになりました。今後、お客さんにトイレがきれいと思っていただけるのは、ひとつの強みになりそうです。2026年の3月頭くらいには新しくトイレができる予定です。」
――深谷の魅力についてお聞かせください。
横谷「深谷ねぎは全国的に知られているブランドじゃないですか。とうもろこしの『味来(みらい)』もブランド認知が進んでいるし、あとはブロッコリーの生産量も上位です。つまり、売り込むべき野菜が多いんです。それを使っていろんな商品を開発することもできますし、可能性は大きい。あと、10年くらい前は渋沢栄一に関しては、それほど有名じゃなかった。渋沢栄一翁生誕の地という大きな看板はあったのですが、関連の商品は無かったんです。もうちょっと宣伝できたらいいなと、思っていたんですよね。すると2021年にNHKの大河ドラマ「青天を衝け」が決定してから、関連商品が増えました。もっと早く渋沢栄一を発信してもよかったかなという反省はあります。他にもまだ深谷って、魅力があるものがいっぱいあるので、これからどんどん全国的にアピールしていけば、地方創生につながると思います。」
内田「深谷は野菜の一大産地なんです。肥沃な大地で、北に利根川があって、南に荒川があって、深谷市はそこに挟まれている。ですから昔から農業は非常に盛んです。2026年にブロッコリーが指定野菜になります。深谷での生産量が全国トップクラスなんですね。なので、深谷では野菜を中心にした色々な商品やサービスが生まれていると思います。文化的なものも沢山あります。富岡製糸場が世界遺産になったときに、富岡製糸場の建物に深谷の煉瓦が使われていることが知られました。野菜だけではなく、歴史や文化もある。」

繋がりを保つには、適切な情報集積が必要
――2017年のリニューアルから10年経ちます。今後の方向性についてお聞かせいただけますか。
横谷「そうですね、イベント広場の活用ですね。週末はハンドメイドを中心にした『はなぞのクラフトマルシェ』さんですとか、様々なお店がでるんですけど、平日はご覧の通り何もない状態なので、イベント広場の有効活用を考えています。それと、今年度の埼玉県の道の駅連絡会の監事を私が務めることになり、いま他の道の駅とのコミュニケーションを取っているのですが、意外にも道の駅同士のつながりって少ないんですよ。『道の駅はなぞの』と『道の駅おかべ』は同じ会社(ふかや物産観光株式会社)が運営しているので連携はありますが、近くの道の駅とは、もうちょっとコミュニケーション強めていきます。繋がりを持って、自分の道の駅だけじゃなくて、他の道の駅のいいところを参考したり、情報を提供したり、そういった繋がりが今後あってもいいかなと思っています。あとは、この『道の駅はなぞの』を目的としてくるお客さんをもっと増やしたいですね。単なる通過点ではなくて、『道の駅はなぞの』にいって買い物したいな、それから出かけようかな、という選択ができるような道の駅にしたいという思いです。県、深谷市とも連携して、道の駅としての役割を高めていきます。
――道の駅の間で回遊ができても面白そうですね。
内田「地域や古さにもよりますが、道の駅のあいだで格差が生じているのが実情です。どうしても、一律同じように集客するのは難しい。そういった格差を埋めるような形で連携、協力していくことが重要です。その為には観光という切り口で連携できると良い。『道の駅はなぞの』で発行している、『秩父路の旅』という冊子があります。秩父へ行くには、この道の駅から行くことができますよ、というように、いろんな道の駅との繋がりをまとめたものです。地図には観光地や、店など、そういった情報も記載しています。連携に関しては、こうした取り組みで『道の駅はなぞの』が音頭を取っています。あとは、観光地の近隣にも色んな施設がありますよね。そういったところに協力してもらって、冊子に記載しています。『道の駅おかべ』も同じように『中山道の旅』という冊子を発行していて、『道の駅おかべ』から群馬の方を特集していますので、観光という切り口で、群馬の方面にも協力してもらっています。」
横谷「好評いただいておりまして、置いておくとすぐ無くなっちゃうんです。」
――場所というより、道を基点とした繋がりが強く、それぞれの地域の良さを繋いでいる。繋がりを保つにはどうすればよいでしょうか。
内田「繋がりを保つには、適切な情報集積が必要です。それと、紙ベースで冊子のほうが分かりやすいと考えています。こういった地図って、インターネットやカーナビの不得意な分部をカバーしていて、どの方面に、どういうつながりがあって、どこに立ち寄れるか知ることが出来る、有力なツールです。そういう点で、紙の冊子は喜んでいただけるんですよね。観光案内の冊子を発行するところはあまりないんです。だからそういったものも、協力できる範囲では、協力しあって、同じものを各道の駅に置いて、頒布しています。」
――道の駅同士の繋がっていくと、スケールが壮大になりますね。
横谷「この間も、道の駅同士でイベントをしようって話があったんですけど、土日はどこも忙しいじゃないですか。だから、参加できない所もあって、難しい分部もあるんです。お互いに週末は忙しいので、どうするか考えないといけません。」
――例えば「道の駅はなぞの」に「道の駅おかべ」のポップアップストアを置いて、「道の駅おかべ」にしかないものを置くのはどうか。
内田「民間のスーパーでそのような試みをしているところが結構あります。全国の道の駅の商品を扱って、その地域で紹介して販売しているわけですが、それはやはり集客が安定してできるから、成り立っているんですよね。そこまで道の駅がなってくるといいですよね。」
横谷「道の駅でも、なかなか余力がない所が多くて、企画が難しいんですよね。だから全て協力し会えるかと言うと難しいと思うんです。できる道の駅には声をかけていきたいなと思っています。それから、今は道の駅同士が競合になりつつあるんです。いままではスーパーと違って、道の駅は単独で成り立ったのですが、埼玉県でも近隣に道の駅ができているので、やはり競合性というのは発生してしまいます。道の駅は、やっぱりカラーをしっかり持っておかないといけない。これから道の駅が努力していくべき課題だと思います。」
――バンブックやリロカ事業部に期待していることは。
横谷「いま『道の駅はなぞの』では、バンブック運営のFARMY CAFE curry standに一所懸命頑張って頂いているところです。地元の食材も扱って貰っています。新たに、『道の駅はなぞの』にしかない、FARMY CAFEでしか食べられない商材を、また開拓していただいて、FARMY CAFE行かないと食べられないから行こう、と言われるような商品があれば嬉しいです。当然、地場の商材を使っていただければ有り難いですけど、いま「映える」商品が人気じゃないですか。若い方の来訪も多いので、若い方に受けるような商品開発をお願いしたいと思います。」
内田「バンブックさんは都会にあってセンスがいいので、おしゃれなものを考えていただきたい。」
横谷「メロンパンを目当てに人が来る道の駅もあるので、何かしら起爆剤となる商品があれば、一気に認知度が高まる状況です。ぜひお願いしたいと思います。」
――尽力致します。最後に、一言ずつ頂ければと存じます。
内田「会社のほうでは、リニューアルから10周年ということで、地域に根ざした道の駅としてお客様に愛されて、生活を潤していく道の駅、『満足していただく』から、『感動を与えていく』道の駅にしていきたいと考えています。社内では、いま『いいね みちはな!』というキャッチコピーで、従業員一同目標に向かって、お客様に感動してもらおうと頑張っています。」
横谷「道の駅にまた来たい、そう思っていただける道の駅をつくっていくことを心がけています。そういう意味では楽しい道の駅にしていかないと思います。従業員も満足するし、お客さんも満足するし、みんなが満足しないといけないでしょうね。」
文・写真 大山アランラドクリフ(バンブック リロカ事業部)
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